“NHKがつくったラジオ用の言葉っていうのが標準語なんだよね。あれは東京の言葉じゃないんだよね。おいら、「まっすぐ」って言えない、「まっつぐ」ってね。「しろしま」だし、「しゃくえん」だし、「おいら」だから。僕たちなんて言わない。だけど、その当時の漫才は「昨日、君の家へ行ったけど、君、どうしてたんだい?うちの妻(さい)がね、君のとこ、サイ飼ってんのか」って、そういうような漫才で。それでずっと来ちゃってたから、ベタベタの関西弁の「何言うてまんねん」「何やそれ」「あほか」っていうような言葉に圧倒されたんだよ、一時。 それで俺が漫才師になったときに、こんな標準語で漫才してたらすぐに終わっちまうわ、って言って、明らかに標準語と違う、足立区とか台東区の下町言葉でやったの。「何言ってんだ、バカヤロウ、コノヤロウ」「あれだろ、おめえ」ってやってたら、オーディションなんかでプロデューサーが、「一体どこの出身?下品な言葉だねえ」って言うから「何が下品だよ、東京だよ」って。「東京の人、そんなに訛ります?」って言うから、「お前らみたいなのは標準語って言うんだよ。『NHKの標準語』だよ。東京はこういうしゃべり方だよ」っつって。その芸風でやっと、関西弁に対抗できたんだよ。そういう意味じゃ、おいらの芸風や話し言葉のリズムってのは、足立区で培われたものなのかもしれないな。 東京って、つなぎの言葉で「バカヤロウ」が入るから、「何言ってんだ、バカヤロウ」「いい加減にしろよ、バカヤロウ」「心配したぞ、バカヤロウ」って、どっちなんだかわかんない(笑)。とりあえず「バカヤロウ」が入るんだね。 関東での「何言ってんだ、バカヤロウ」ってのは、バカヤロウとは思ってない。関西の「アホか」って言うのと同じ。「自分(相手のこと)、あれとちゃうん?」ていうのと、「おまえ、あれじゃねえかよー」って言うのと、「あんたはあれですか」って言うのと全然違う。リズムが違う。漫才においては、下町の言葉でないと対応ができない。それがもう市民権、得ちゃったんで、自分の出てるテレビの番組は標準語、使わねえもん。わざと、「おいらんとこはよー」とか。 それで、自分のテレビにおける存在感みたいなものができたよね。それがいまだに続いてて、やっと東京人の漫才師が、「おめえよー」って言葉を使うようになった。 昔はよく、ざあます言葉とか、ばかにしたよね。「~してよろしいでしょうか」とか聞くと、「何言ってやんだい、バカヤロウ」って。それはやっぱりお笑いの原点である、権威に対する逆らい方っていうか。何を気取ってやんだい、バカヤロウって。 関西の言葉のリズムと関東の下町のリズムはだいたい似てるんで、漫才って商売が、関西だけのものでなくなったね。 そもそもは、ラジオができて、全国共通の言葉を東京の言葉と勘違いしちゃったから、何の味もない言葉になっちゃったんだよ。”
— ~足立大好きインタビュー~ 芸人・映画監督 北野武さん
https://www.city.adachi.tokyo.jp/miryoku/interview/t-kitano.html (via deusnatura)